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医療判例解説(2020年6月号)にSBS特集が掲載されました-真の専門家は?

  • 執筆者の写真: Akita Masashi
    Akita Masashi
  • 2020年7月5日
  • 読了時間: 2分

主に医療関係者向けに裁判例を解説する医療判例解説2020年6月号(通巻第086号)の特集(医事法令社)として「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」が取り上げられました。笹倉香奈教授の解説「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)とその歴史」とともに、このブログでも繰り返し触れてきた大阪高裁令和元年10月25日判決と同令和2年2月6日判決の詳細な解説を加えたものです。特に、朴永銖医師(奈良県立医科大学・脳神経外科准教授)による令和2年2月6日判決についての解説(同事件での検察側医師証人の証言の問題点はこちら)は、頭部外傷の専門医によるSBS無罪事件についての初めての解説だと思われます。


これまで法律家が、実際の裁判の経過や証拠の内容をご存じないままに、判決にコメントされる例が散見されましたが、朴永銖医師は、両事件で弁護側の鑑定意見を作成していただき、法廷証言もしていただいています。当該事案の医学的データを精査した上での解説であり、きわめて貴重です。中でも、SBSの三徴候の一つとして重視される脳浮腫についての解説が重要だと思われます。検察側証人として法廷に立つ小児科医や内科医は、「短時間で広範囲に生じた脳浮腫」を低酸素脳症による二次的な脳浮腫ではなく「一次性脳実質損傷である」であると証言することが多いのです※。しかし、朴医師は、これを明確に否定します。脳神経外科医としての知見・経験から、「脳浮腫の進行速度から、低酸素脳症ではなく、一次性脳実質損傷であるとの推認は誤りである」と断言されるのです。そして、裁判の中で小児科医が誤った医学的見解を述べていたことを自認したことも踏まえて、「頭部外傷の”真”の専門家は誰なのか」と疑問を呈されています。

現在も全国の刑事裁判で、SBSをめぐる争いが続いていますが、今後の裁判実務にも重要な意義をもつ特集と言えるでしょう。

※ここで広範囲に生じた一次性脳実質損傷とは、びまん性軸索損傷としか考えられないのですが、なぜか検察側医師はその断定を避けます。過去にもびまん性軸索損傷についてこのブログで触れたことがあるのですが、重要な問題なので、別の機会に改めて述べたいと思います。

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